9月16日 初めてのマウント・タラナキ登頂チャレンジから約一年。また今年も行ってきました。今回は天気は完璧。予定を知ったときから意気込んでいました。 私の本業は大学生です。毎日講義と実験、レポートの課題にテストと勉強、日々忙しく勉学に勤しんでいる合間に登山を楽しんでおります。 出発は土曜の朝7時。金曜の夜はレポートの締め切りがあったため深夜2時に就寝。疲れ切っていたしとにかく寝たかったので、準備もなにもせずにアラームをかけました。 土曜の朝7時半、シェルビーからの電話で飛び起きました。いやー、やらかした。またやってしまった…。部長のジェームズが電話の向こうで「またワコだよ!やりよったなー!」と笑っていました。でもね、ちょっと嬉しかったんです。たぶん去年だったら私がいないことも気付かれてないかもしれないし、電話なんてくれてないと思うからです。一年以上かかって部活の一員として認識されるようになってほんとうに嬉しいです。あ、でも寝坊はほんとうにごめんなさい。 車はアビー(来年の部長)と彼氏のセフトンに載せてもらいました。タラナキに無事到着し、みんなより40分ほど遅くに出発。途中で合流して登頂アタックに間に合いますように。 二時間ほどで先頭チームに追いつきました。後方チームは山頂は目指さずにサイム・ハットでシャンパンを楽しむらしいです。 雪は柔らかすぎず、良い感じに凍ってて、アイゼンには最高のコンディションでした。サイム・ハットに午後1時半に到着。去年と全く違った形相でびっくり。あちゃちゃちゃちゃ…これどうすんの…? 私たちとは別の登山チームが先に到着していて、その男性が入り口の氷を必死で取り除いてくれたおかげで無事今晩は外で寝る可能性はなくなりました。 中に入り、登頂に不必要なものは全部パックから出してバンク(自分の寝るところ)に場所取りとして置いていきました。ここ、重要です。母からもらったサーモスのスープジャー第二号もバンクに置いていきました。 昼食を済ませて午後2時に登頂組は出発。目指すは山頂。このハットから山頂の往復が約4時間と推測されていて、日の入りは午後6時頃。暗くなる前に帰れるかギリギリのタイムリミットでした。 登り始めてすぐ、南側の斜面がツララに覆われていることに気が付きます。この時点でワシは心がズーーーーン⤵︎⤵︎ってかんじになり始めてました。 ツララは標高を増すごとに大きくなり、足を置く場所さえ覆っていました。踏み出すごとにツララは壊れ、ガラガラと音を立てて急斜面を滑り落ちていきます。アイゼンを踏みしめるとき、シューズの下にはツルツルした円柱形の氷があることがもろにわかり、アイゼンを信じきれない気持ちがだんだんと不安ばかり大きくさせていました。何度も何度ももうこれ以上登りたくないと思う反面、去年残した課題を成功させたいという気持ちの方が強かったので、恐怖を封じ込めて一歩一歩進み続けました。 しかし、残り150メートルほどのところで心が折れました。ただほんとうに怖かった。高さもツララも、疲労があって乗り越える力はもう生まれなかった。 自分の弱さがむちゃくちゃ悔しかった。天気も晴天で風が全くないこれ以上に望めるものはないくらい最高だったはずなのに。もう少し足場のコンディションが良ければ、なんて考える自分も嫌でした。よりよいものを望んで自分が達成できなかったことに対する言い訳なんて始めれば、ただの底なし沼の自己過大評価言い訳野郎です。だけど、これ以上プッシュして追い込んで最悪の事態になれば、チーム全体にも部活にも迷惑をかけることになると思い、安全第一を選びました。自分のその日のリミットを把握し受け入れ、そしてコールアウトするのは屈辱的です。簡単なことではありません。今回は自分の体も心も山よりは強くなかったということです。 待ってる間、恐ろしいぐらいに体全体が攣ってめちゃくちゃ痛かったです。まずは右脚が攣って痛いから立って伸ばそうとしたら、左脚も攣って、体を伸ばそうとしたら次は背中からわき腹に向かって攣る。このまま攣り続けたら死んでしまうってまじで思いました。しばらくしたら治りました。ご心配おかけしました。 風は穏やかで太陽が目の高さまで傾いていました。影が伸びてきて、気温も下がっていくのを感じ、不安がまた大きくなって今度は焦りもコンニチハー!!と。 山のいいところはとても静かなこと。静かだけどたくさんの音が鳴っている。 風の音、 葉っぱが擦れる音、 木が軋む音、 鳥が飛ぶ音、 重なるさえずり、 落ち葉を踏む音、 一キロ先の人の声、 呼吸の音、 鼓動の音、 頭の中の声、 血が駆け巡る音、 そしてこれらの音を圧し殺すずっとずっと遠くで鳴るエンジン音。 街にいるとワシはなにも聞こえなくなります。全てが啀み合い、かき消され、自分の声も聞こえない。この喧騒が耳を通って頭のなかでハウリングして、出口を失ったハエのように飛び回ります。「ポケットの中のビスケット」の唄をよく思い出します。「ポケットの中にはビスケットが一つ、叩いて見るたびビスケットは増える。」頭の中に入った騒音は頭蓋骨にぶつかるたびに倍に鼠算式に増える、そんなかんじです。そんな不思議なポケットが欲しいかぁ。なんてトムたちを待ってる間考えたり。村上春樹になれそうですな。 太陽が山に隠れそうになり、向こう側に見えていたハロ現象が見えなくなったときにトムたちが帰ってきました。 無事に誰も怪我をせずにハットまで下山できたことはとても誇れることです。部活としても、個人としても、正しい判断を下せたことは勇気のあることでした。 ハットに戻ってきて、他のメンバーたちが夕陽を見ながら出迎えてくれました。ほんとうに嬉しかった。みんなが安全に帰ってきたことを褒めくれたし、一緒に喜んでくれました。こういうとき、仲間がいるって幸せなことだなって感じます。ソロハイカーはなんでも自己完結することばかりで、自分の身の安全はエゴや野望よりも大切であることをよく忘れてしまいます。この気持ち、これからも忘れずに大切にしていきたいです。 ハットの中は暖かく、温かいご飯を食べたらすぐに眠たくなってきて、みんなも午後9時半には就寝。悲しいことに山頂アタックする前に置いていったサーモスのスープジャーが見当たらない。みんなに聞いて回って探したけど結局出てこず。夜も隣のバンクで寝ているデブおっさんのイビキがうるさくてほとんど一睡もできなかった。口を塞いでやろうかと血迷ったが無事にだれも殺さずに朝を迎えることができました。 朝はそのせいもあって最後まで寝てたのはやっぱりワシ。シェルビーに石を投げつけられてようやく起床。朝食を済ませ誰よりも早くパッキングし時間通りに出発。 下山は登山よりも怖かった!去年も全く同じことを言ったような気がするが、感覚は滑り台を歩いて降りるかんじ。しかもそれを何時間も。太ももが千切れるかと思った。風は暴風に近く、飛ばされないだろうけど飛ばされそうと思いながら早く安全な場所まで降りたくて慎重かつ素早く歩く。そう、下山はコツさえ掴めば大丈夫。 そうして、今回もマッセー大学アルパインクラブの旅は無事に安全に楽しく終えることができました。ほんとうに楽しかった。サーモスのスープジャーをなくしてしまったことは悲しみ極まりないけど…。 次は登頂できるといいなぁぐらいの意気込みでまた来たいと思います。山は逃げないし、いつまでも待っててくれるので。焦らず確実に。
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二度目のワイオペフ・ハットに行ってきた。今回はサーキットを歩くつもり。お供は、来年度からの部長のアビー。最近仲良くやっとります。
先週末だっけか、ふたりで山に行く予定立ててたけど、前夜にウサギを車で跳ね飛ばしてフロントバンパーとライトが壊れてしまったから急に行けなくなった。その代わりに今回のハイキング。 アビーがお母さんが昔履いていたハイキングブーツを修理に出していて、新しくソールを直してもらって継承するらしい。そのブーツが完成したから試し履きしたいんだとさ。 順調に駐車場に到着し歩き出す。 天気はまあまあ。曇ってるけど雨ではない。 アビーも歩くのが速くないから、ふたりでぺちゃくちゃおしゃべりしながら登っていく。話してる方がワシの気が紛れて楽だから。 途中、アビーがよく止まるようになる。どうしたものか、ブーツの足首の部分が硬くて痛いらしい。引き返すか聞いても大丈夫だと言うので、そのまま続行。 痛みは増すばかりでとても辛そう。取り敢えずハットまでなんとか到着。三時間で着くとふんでいたが、四時間以上かかった。 ハットでち昼食を取っている合間に風と霧は強くなり、ピークと峰を通るサーキットはやめにして来た道から帰ることに。 帰りが地獄だった。文字通りの地獄。 アビーの足首は痛くなるばかりで、苛立ちも募る。 当然足取りは重く、下りはより慎重になった。 そうしているうちに、日は落ち、 ヘッドライトを持ってきていなかったアビーはより一層怒りが増して、感情を抑えきれなかった。 下山中ずっと悪態を聞き続け、できるだけ気を紛らわせようといろんな話を振ってみる。空気を和ませようと、にこにこ顔で話を聞く。それがまた腹が立ったんだろう。完全に暗くなった頃に「なんにも面白くない!教えてやろうか?もうこのパートだけで二時間も歩いてる!」と怒りを向けられたが、反射的にまたにこにこ顔をしてしまい、また「なんにも面白くないんだけど!」と言われてしまった。地獄すぎる。 それから何度も発狂したり泣いたり、可哀想だった。痛みはつらい。どうしてあげることもできない。自分の靴と交換しようかと二度目に尋ねた時に「いらないってば!」って拒否されのはさすがにシュン…ってなった。 結局五時間半かかってようやく駐車場に到着。大変、地獄であった。 この日のことをこれから「ワイオペフの悪夢」と呼ぶことにする。 |